百八記blog

はてなダイアリー「百八記」から引っ越しました。相変わらずの、がさつずぼらぐーたら。

ペンギン・ハイウェイ

久しぶりにブログを更新します。ここしばらくというもの、頭がとっちらかって、とんと、まとまったことができなくてね。
この文章もとっちらかるだろうけど、おゆるしを。

あ、ネタバレありありです。すまんこってす。


それというのも文庫化された「ペンギン・ハイウェイ」を読了して、その素晴らしさにハアハアしてTwitterで人にも薦めたのですが。

これまで森見作品で文庫化されたものは全て読んだ、四畳半のアニメも全部観た、あと文藝春秋だったかの特集は買ったけどそのときは読書量が足りなかったので、ざっと拾い読みして、言及されている作品ぜんぶに目を通すまで寝かしとこう。と放置してある程度のファン(かなあ)なので、作者の名前の新しい文庫を見た途端にひっつかんで時間もなくそのままレジでカバーかけてもらって、表紙も裏も帯も見てなかったのですけども。

読後、解説が萩尾望都だったことに加え、検索してみたら本屋大賞やらSF大賞やらになってるし、角川の特設ページはできてるし、知らんかったーそんなに話題の本だったとはー。
もう一度読み直す必要はありそうだけど(本は間をおかず2回は読む主義です)、検索で出てきた森見氏のブログや各読書サイトの感想などを読むうち、私にも語らせてほしい気持ちが、メラメラと。

と、いいますのはね。
森見氏が「ソラリス」にインスパイアされたという一文を読んで、私の読み取りはおそらく、作者の意図とそう外れてはいなかったと感じたこと、そしてその読み取った内容を、他の読書氏が書いていなかった(流し読みした私がたまたま記述を見つけられなかっただけで、たぶん多くの人が同じことを読み取ったのだろうけど)ことで、これだけは、一読目の印象が鮮やかなうちに書きたい!書かせて!とムラムラして書きはじめましたのですよ。

と、ここまでが前置き。長くてすいません。


Twitterにも書いたのだけど、主人公の造形はさておき、まわりに配された人物の造形もすばらしい。
なかでもウチダくん。ああウチダくん。アオヤマくんやスズキくんより少し文系というか、人の心に関心があって、ゆっくり静かにものを眺め考え、結果として少し気弱に見えるためにいじめられちゃったりもするウチダくん。

彼が物語のなかで、主人公のアオヤマくんに、とても大事な視点を提供するのです。
それは、死についての捉え方を、並行世界の捉え方といっしょに語るところ。
蓋し、卓見と言えましょう。ともすれば外部の事象の観察と分析を好むアオヤマくんやハマモトさんではなく、ウチダくんという寡黙で心優しい少年が、研究という手段を知り、自らの恐怖心を丁寧に見つめ掬い取るという過程ーそれはとても切実で、哲学的な作業ですねーを経て、まだ結論には至らないけれど見出したひとつの仮説です。
物語はどの部分も大事だけれど、私にはここがクライマックスであると思われました。

そして。
読後、ウチダくんの説を思い合わせ、つまりアオヤマくんにとっては、お姉さんは海とともに行ってしまったけれど、アオヤマくんにとってはそれは死んでしまったことと何ら変わりはなく、これははじめての失恋というよりはじめての死別で。お姉さんにとっても、それは同じことで。そのことに、頭のいいアオヤマくんは気付いているのだなあ。と、私は思ったのでした。
また、もう会えない人との失恋は、死別と同じぐらいの辛さを伴い、息子が人生で一番辛いことのひとつを経験したということを、おそらくアオヤマくんのお父さんはわかっている。
もちろん、一度、邂逅した並行世界であれば、またお互いに逢えることもあるだろうし、アオヤマくんが大人になるまでにその方法を見つけるかもしれない。これは救いではあるけれど、このラストは切ないなと私は涙したのでありますが。

ところがところが、作者の「ソラリス」の提示によって私に与えられたのは、アオヤマくんがー宇宙への志向をもち、いつか出会う嘗ての恋人を求める若き研究者がーお姉さんと出会うのは、どこでなのか。ということへの、回答のようなものでした。
約束された「ソラリス」で、彼らは出会えるのです。何度でも。何度でも。
アオヤマくんとケルビン、お姉さんとハリー。
私も気付くべきでした、「海」の描写がソラリスを髣髴させることに。迂闊でした。
もちろん、イコールではありません。ペンギンの出てくる海の話は、ソラリスのある世界に似た、別の世界のお話です。ケルビンはアオヤマくんではないし、ハリーはお姉さんではない。
それでもーーーたぶん、彼らは、出会うのです。宇宙のどこかで、街のどこかで、なんなら明日にでも!なんと希望のもてることでしょう。
ただし、ソラリスの海が提供するのはケルビンの心の中にあるハリーです。アオヤマくんにとっての他者であるお姉さんではない。
じゃあ心の中の大切な人と出会うことはどういう意味があるのか。そこから先は、また別のお話になる、のでしょうけど。

ところでケルビンは心理学者なんですよねー。アオヤマくんはいろんな科学を学ぶだろうけど、どうも、登場人物のなかでは、ウチダくんのほうが多分に心理学者的な造形 ではある。
ウチダくん。君はどこで恋人と出逢うのかな。

優れてSF的であると同時に、登場する主要な子ども全員にとっての成長小説でもあり、エンターテイメントであり、ますます冴える筆遣いも堪能できる。
見事な小説であります。明日も持ち歩こうと思います。

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)