百八記blog

はてなダイアリー「百八記」から引っ越しました。相変わらずの、がさつずぼらぐーたら。

歌舞伎座 夜の部

ビンボーで悲惨な芝居…私の苦手なジャンルだ…が2本も入ってたわりに、満足度の高い、よい舞台でした。のんびりしてて開演から15分遅れてしまったのが悔やまれます。

  • 近頃河原の達引

初見です。あらすじだけ、ざらっとパンフレットで眺めていて、ふうん?あんまり好みじゃないなあ…柳の下の泥鰌もいいところだ。と思っていたのですが、これがなかなかどうして。
猿廻し予次郎の我當が、こんなにいいとは。藤十郎の伝兵衛は当然のようにいいのですけれど、秀太郎のお俊も、ま、ちょっと老けてますが、よい。
あと、なんと言っても吉之丞。もとは三味線で食べてたような(しかし決して粋筋でチヤホヤされてたわけではなくて、腕一本で子供を育ててきた、みたいな)老母として、出すぎず、埋没せず、品も良すぎず悪すぎず、すばらしい存在感。
で、母親が三味線師匠で息子が猿廻し、娘が遊女。どうやらやや村はずれらしい(脇に地蔵がいますから、辻か川べりでしょうか)、おんぼろ一軒家。と来ると、今読んでいる(上記の)『日本民衆文化の原郷―被差別部落の民俗と芸能』を思い出さずにはいられません。そういった意味でもリアルな芝居でした。

  • 二人椀久

本日の私的にはメーンエベント!
菊之助は大好きですが、このたびは何と言っても富十郎が…シャープで、よく動いて、色っぽくて、なんとも格好良かったです。ついていく菊之助が一生懸命で、これはこれでいいけれど、まあまだ月の前半ですし、月の後半にはもっと良くなっていることでしょう。

  • 筆屋幸兵衛

幸兵衛に扮する幸四郎の出で、一瞬、コントかと思ってしまいました。そそけた髪、垢染みた着物、無精ひげはぎりぎりで泥棒ひげになるところ(志村けんの変なおじさんか、カールおじさんを思い浮かべていただいて、ああいうかたちに青いひげが描かれていると思ってください)、眉だけはキリリと美しい描きよう。
ところが、芝居に入ると、これらの風体がどんどん力を持ってきます。籠釣瓶のときも思ったけれど、このひとの、真面目律儀が思いつめた挙句の気○いは、すばらしい。
子役は壱太郎くんが、姉娘として、自然でした。妹娘の米吉くんは、うーん、丸々と健康的で…貧乏人には、どう転んでも見えなかったけれど…ま、これはこれで子供らしくて、よい。
最後には親子の命は助かりますが、だから明日からすぐにでも幸せになるかと言うと、その先にも、ご一新で食えなくなった、3人も子供を抱えた武士のなれの果てが…ま、すぐには良くはならないでしょうな。借金も残ったままだし、あれはまだまだ、ぼったくられると見た。
この閉塞感。やりきれなさ。希望は無くても人は生きていかなくてはならないという現実。人情ものは苦手ですし、黙阿弥芝居としての評価も知りませんが、たまにはこんな芝居も、いいものだと思いました。