百八記blog

はてなダイアリー「百八記」から引っ越しました。相変わらずの、がさつずぼらぐーたら。

歌舞伎座 昼の部 夜の部

昼の部は16日(日)、夜の部は22日(土)に行きました。ええ、相変わらずそういうペース。ニガイメさんに感謝。
今月は顔見世および三代目時蔵50回忌。顔ぶれがなかなかで安定感バツグン、演目も古典の名作揃い踏み。うひょひょ。

  • 盟三五大切

はじめは時蔵の芸者小万と菊五郎の三五郎の、粋を体現したような身のこなし、台詞の安定感、小悪党ぶりにうっとりでしたが、だんだん仁左衛門の源五兵衛のイッちゃってる演技にのめりこみました。
色悪って位置付けなんだろうけど、丸窓からヌッと登場する手足の美しさ、小万の首を愛しそうにナデナデしながら雨の花道を引っ込むところ、終幕の迎えに「おお」と応えるところ、全てに狂気と幕末の退廃が漂っていて、ひとつひとつのキマリが錦絵を観るような心地。仁左衛門の源五兵衛は我慢に我慢を重ねてブチ切れるのではなく、まあ酷い目にはあったけれど、もともとのベクトルが血なまぐさい方向に傾いている。これ忠臣蔵の世界なんですが、なるほどこういう狂気の人々が忠義って大儀を得て、あんな事件になったんだなあと妙な説得力がありました。
また、「刀」というものの恐ろしさ。市井の人々にとって、侍というのは人切り包丁ぶらさげてるだけでも充分にアブナい人なんだなあってことが、ひしひしと。それもこれも仁左衛門の演技あってこそ・・・買うつもりなかったのにブロマイド買っちゃいましたわ。
これ、南北が書いて初演した頃には、ずいぶんゲテモノ的な見世物だったんでしょうねえ。きっと今より、血糊やなんかもたっぷり飛ばして、顰蹙と大うけを買っていたのだと思います。
梅枝さんの芸者菊野、成長著しくめでたい。田之助の了心、先月に引き続きお元気そうでなにより。

  • 吉田屋

夕霧伊左衛門を魁春藤十郎。ごめんちょっと寝ちゃった・・・。
鷹揚でぼっとりしていて、藤十郎らしい一幕。だと思うのですが、どうも藤十郎の伊左衛門は私の好きな仁左衛門の伊左衛門にあるボンボンの可愛げが、薄いのですよねえ。その分、和事の色気はたっぷりなんでしょうけど、それだけでいいのか。もともとお話自体は他愛無い御伽噺で、そこへ藤十郎の色気だけでなんとかしようとしても、ちょっと物足りない気がしてしまったのは、私が欲張りなんでしょうか。
ほかに秀太郎のおきさ、なるほど祗園の大店のおかみならばこうもあろうかという愛嬌と品の良さ、格別と言っていいと思います。

ふと思ったのだけど、仁左衛門は昼も夜も、愛しいものの首とご対面しているのですね。いやはや。
どこにも悪いところは無いように思うのですが、これといって特記したいこともない。子役はどちらも元気が良い。1ヶ月間の公演で、しかも夜に入って疲れているだろうに、えらいえらい。
いくつか「いつもと違うな?」というところはあって、寺子たちがいつもはだしなのが草履をきちんとはいて飛び出していくところとか、と思ってたら後からニガイメさんが「寺子の数が少なかったね。少子化だ」と。ええ?そうか気付かなかったなあ、では草履はいてたのは時間調整か(笑
藤十郎の千代、いささか泣きすぎ・・・子供を亡くしたのだから仕方は無いのだけど、そこまで泣いたら後の仁左衛門の松王丸の号泣がやりにくいのではないか。
魁春の戸浪、いろいろすることが多いのですが、微塵も薄情なところがなく、気が利いてとりまわしが良い、上々でした。

菊五郎静御前と知盛、富十郎義経左團次の弁慶、芝翫の舟長。いずれも佳。久しぶりに、とっくり満足のいく船弁慶でした!
殊に、ごめん菊五郎を私はどうやらナメていたようです。謝ります。以前は荒れていた声の調子が良くなって、ほのぼのと美しい静。舞はいかにも歌舞伎らしく面白く、これなら義経も惚れるわー。後段の知盛も十全に体が動いて、しかも長唄との絶妙の間合いが見事。糸に乗るとはこういうことかと思いました。花道の引っ込みも格好が良い。堪能。
富十郎も上々、「そのとき義経すこしも騒がず」の澄んだ通る声が、能の子役の義経のピュアと一脈通ずるところがあり、舞台の格調を高めました。
左團次は出てきたときから「おお!弁慶っ」という感じで、いやー怖いです、強そうです(笑)。といって、情味が無いわけでもなく、静と義経を離すところも変な感情が入らず、筋を通し為すべきことを為しているというかんじ。この一本通った性根であればこそ知盛も撃退されるのでしょう。
ところで余談ながら、この夜は観客に子供が多く、それはいいのだけど5歳以下の子は困ります。ものすごくいい場面で「ぱーぱー」などと無邪気な声が一度ならずかかって、申し訳ないけれど、ちょっとムッとしましたよ。子供が声をあげるのは当たり前で、良い舞台であればあるほど親御さんの関心はどうしても自分のものではなくなるし、舞台も小さな子供にとって面白い話ではなし、親の責任で静かにさせられる年頃でもなし。未就学児は歌舞伎座夜の部は(終演も遅くて子供は寝る時間になりますしね)、親御さん大変だと思いますが、どこかに預けるかなんとかして、来させない工夫をお願いしたいと思います。
あ、東側前方で見ていた2人のお嬢さん(推定5〜6年生と1〜2年生)は、とってもお行儀がよくて、妹さんのほうは途中でくたびれちゃったようだけど静かにしていて、おばちゃん感心しました。お姉ちゃんのほうは時々お父さんになにかと小さな声で質問していて、またお父さんがそれによく答えてあげていて、これはなかなか良いなあと思った次第。

  • 嫗山姥

初見。時蔵たっぷり。楽しく拝見しました。孝太郎の白菊が実に佳品、強いのなんのって(笑
なーんにももらってない男から最後には押し付けがましく臓物まで食べさせられて(しっかし「三五大切」といい、歌舞伎はグロが多いなあ。客席からはその場面は袖で隠れるので一瞬フェ○に見えないこともないし、そうすると更にエログロでまことにお品がよろしい^^;)、十月の後に子を生めだの山から山へ渡って暮らせだのさんざんなことを言われ、憑依されて山姥になっちゃう。まーさんざんな女の一生
これを楽しく華やかに見せてしまうのが歌舞伎の面白いところ。また、遊女の喧嘩を語るくだりでは、「さくらん」なんか目じゃない暴れっぷりでスカッとします。こういう気性だから金太郎さんがのびのび育つんでしょうな。
梅玉の坂田蔵人時行、軟弱で役に立たなくて迷惑で、ひたすらいい男ってだけで世を渡っておる。いいですなー。私、このお芝居、けっこう好きだな。
ちょっと場がダレるところがあるので、そこは台本などゼヒ工夫していただきたい。